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「日の春を(百韻)」(貞享三丙寅年正月) [江戸の俳諧]

「日の春を(百韻)」(貞享三丙寅年正月)

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初表
日の春をさすがに鶴の歩ミ哉  其角
『初懐紙評注』には、「元朝の日花やかにさし出て、長閑に幽玄なる気色を、鶴の歩にかけて云つらね侍る。祝言外に顕る。流石にといふ手には感多し。」
季語は「春」で春、天象。「鶴」は鳥類。
  
砌(みぎり)に高き去年の桐の実 文鱗
『初懐紙評注』には、「貞徳老人の云。脇体四道ありと立られ侍れども、当時は古く成て、景気を言添たる宜とす。梧桐遠く立てしかもこがらしままにして、枯たる実の梢に残りたる気色、詞こまやかに桐の実といふは桐の木といはんも同じ事ながら、元朝に木末は冬めきて木枯の其ままなれども、ほのかに霞、朝日にほひ出て、うるはしく見え侍る体なるべし。但桐の実見付たる、新敷俳諧の本意かかる所に侍る。」
季語は「去年」で春。「桐」は植物、木類。

 雪村が柳見にゆく棹さして   枳風
『初懐紙評注』には、「第三の体、長高く風流に句を作り侍る。発句の景と少し替りめあり。柳見に行くとあれば、未景不対也。雪村は画の名筆也。柳を書べき時節、その柳を見て書んと自舟に棹さして出たる狂者の体、珍重也。桐の木立詠やう奇特に侍る。付やう大切也。」
季語は「柳」で春、植物、木類。「棹さして」は水辺。

  酒の幌(トバリ)に入(いり)あひの月 コ斎
『初懐紙評注』には、「四句目なれば軽し。其道の様体、酒屋といつもの能出し侍る。幌は暖簾など言ん為也。尤夕の景色有べし。」
季語は「月」は秋で秋、夜分、天象。

 秋の山手束(タツカ)の弓の鳥売(うら)ん 芳重
『初懐紙評注』には、「狩の鳥を得て市に持出て売体さも有べし酒屋に便りたる珍重の付様也。手束の弓は短き弓也。」
季語は「秋」で秋。「山」は山類。「鳥」は鳥類。
「手束(たつか)の弓」=「手に握り持つ弓。たつかの弓。」「―手に取り持ちて朝狩(あさがり)に君は立たしぬ棚倉(たなくら)の野に」〈万・四二五七〉

  炭竃こねて冬のこしらへ   杉風
『初懐紙評注』には、「前句ともに山家の体に見なして付侍る。猟師は鳥を狩、山賤は炭竃を拵て冬を待体、別条なき句といへども炭竃の句作、終に人のせぬ所を見付たる新敷句也。」
季語は「冬のこしらへ」で秋。

里々の麦ほのかなるむら緑   仙花
『初懐紙評注』には、「付やう別条なし。炭竃の句を初冬の末霜月頃抔の体に請て、冬畑の有様能言述侍る。その場也。」
季語は「麦ほのか」で冬、植物、草類。「里々」は居所。

  我のる駒に雨おほひせよ   李下
『初懐紙評注』には、「是等奇意也。何を付たるともなく、何を詠めたるともなし。里々の麦と言より旅体を言出し、むら緑などうるはしきより雨を催し侍る景色、弁口筆頭に不掛。」
無季。「我」は人倫。「駒」は獣類。

初裏
 朝まだき三嶋を拝む道なれば  挙白
『初懐紙評注』には、「是さしたる事なくて、作者の心に深く思ひこめたる成べし。尤旅体也。箱根前にせまりて雨を侘たる心。深切に侍る。」
無季。神祇。

  念仏にくるふ僧いづくより  朱絃
『初懐紙評注』には、「此句、僅に興をあらはしたる迄也。神社には仏者を忌む物也。参詣の僧も神前には狂僧也。三嶋は町中に有社なれば、道通りの僧もよるべきか。」
無季。釈教。

 あさましく連歌の興をさます覧 蚊足
『初懐紙評注』には、「連歌の興をさます、付やう珍し。度々我人の上にもある事にて、一入珍重に侍る。」
無季。

  敵(かたき)よせ来るむら松の声 ちり
『初懐紙評注』には、「聞えたる通別意なし。連歌に軍場を思ひ寄せたるなり。」
無季。「敵」は人倫。「むら松」は植物、木類。

 有明の梨打烏帽子着たりける  芭蕉
『初懐紙評注』には、「付様別条なし。前句軍の噂にして、又一句さらに云立たり。軍に梨子打ゑぼしとあしらいたる付やう軽くてよし。一句の姿、道具、眼を付て見るべし。」
季語は「有明」で秋、夜分、天象。「梨子打ゑぼし」は衣装。

  うき世の露を宴の見おさめ  筆
『初懐紙評注』には、「前句を禁中にして付たる也。ゑぼしを着るといふにて、却て世を捨てるといふ心を儲たり。観相なり。」
季語は「露」で秋、降物。

 にくまれし宿の木槿(むくげ)の散たびに 文鱗
『初懐紙評注』には、「宴は只酒もりといふ心なれば、世のあぢきなきより、恋の句をおもひ儲たり。木槿のはかなくしほるるごとく、我が身のおもひしほるといふより、にくまれしと五文字置なり。恋の句作尤感情あり。」
季語は「木槿」で秋、植物、木類。「宿」は居所。

  後(のち)住む女きぬたうちうち    其角
『初懐紙評注』には、「後住女は後添の妻といはん為也。にくまれしといふにて後添えの物と和せざる味を籠めたり。砧打々と重たるにて、千万の物思ひするやうに聞え侍る。愁思ある心にて、前句をのせたる也。翫味浅からず。」
季語は「きぬた」で秋。「女」は人倫。

 山ふかみ乳をのむ猿の声悲し  コ斎
『初懐紙評注』には、「砧は里水辺浜浦等に多くよみ侍る。尤姥捨更科吉野など山類にも読侍れば、砧を山類にてあしらひたる也。乳を呑猿と云にて、女といふ字をあしらひたる也。幽かなる意味、しかもよく通じたり。」
無季。「山ふかみ」は山類。「猿」は獣類。

  命を甲斐の筏ともみよ    枳風
『初懐紙評注』には、「猿の声悲しきより、山川のはげしく冷敷体形容したる付やう。尤山類をあしらひたる也。」
無季。「筏」は水辺。

 法(のり)の土我剃リ髪を埋ミ置(おか)ん 杉風
『初懐紙評注』には、「筏のあやうく物冷じきを見て、身の無常を観じたる也。甲斐と云は、古人仏者の古跡等多く、自然に無常も思ひよりたれば也。剃髪埋み置作為、新敷哀をこめ侍る。」
無季。釈教。

  はづかしの記をとづる草の戸 芳重
『初懐紙評注』には、「別意なし。草庵隠者の体也。さもあるべき風流なり。」
無季。「草の戸」は居所。

 さく日より車かぞゆる花の陰  李下
『初懐紙評注』には、「前句、隠者の体を断たる也。尤官禄を辞して、かくれ住人のいかめしき花見車を日々にかぞへて居る体也。只句毎に句作のやわらかにめづらしきに目を留むべし。」
季語は「花」で春、植物、木類。

  橋は小雨をもゆるかげろふ  仙花
『初懐紙評注』には、「春の景気也。季の遣ひ様、かろくやすらか成所を見るべし。花の閉目杯は、易々と軽く付るもの也。」
季語は「かげろふ」で春。「橋」は水辺。「小雨」は降物。

ニ表
 残る雪のこる案山子のめづらしく 朱絃
『初懐紙評注』には、「是又春の気色也。付やうさせる事なし。野辺田畑のあたり、残雪にやぶれたる案山子立たる姿哀也。景気を見付たる也。秋のもの冬こめて春迄残たるに、薄雪のかかりたる体、尤感情なるべし。」
季語は「残る雪」で春。

  しづかに酔(よう)て蝶をとる歌 挙白
『初懐紙評注』には、「句作の工なるを興じて出せる句也。蝶をとるとる歌て酔に興じたる体、誠に面白し。」
季語は「蝶」で春、虫類。

 殿守がねぶたがりつるあさぼらけ ちり
『初懐紙評注』には、「此句、附所少シ骨を折たる句也。前句に蝶を現在にしたる句にあらず。蝶をとるとる歌といふを、諷物にして付たる也。殿守は禁中の下官の者也。蝶取歌と云ふ風流より、禁裏に思ひなして、夜すがら夜明し興ありて、殿守等があけて、猶ねぶたげに見ゆる体也。」
無季。「殿守」は人倫。
「殿守」=「(「主殿署」と書く)律令制で、春宮とうぐう坊に置かれた役所。東宮の湯浴み・灯火・掃除などのことをつかさどった。とのもりつかさ。みこのみやのとのもりつかさ。しゅでんしょ。」

   はげたる眉をかくすきぬぎぬ 芭蕉
『初懐紙評注』には、「朝ぼらけといふより、きぬぎぬ常の事なり。はげたる眉といふは寝過して、しどけなき体也。伊勢物語に夙に殿守づかさの見るになどいへるも、此句の余情ならん。」
無季。恋。

 罌子咲(さき)て情(なさけ)に見ゆる宿なれや 枳風
『初懐紙評注』には、「はげたる眉といへば老長がる人のおとろへて、賤の屋杯にひそかに住る体也。罌子は哀なるものにて、上ツ方の庭には稀也。爰に取出して句を飾侍る。是等の句にて植物草花のあしらひ、所々に分別有べきなり。」
季語は「罌子」で夏、植物、草類。「宿」は居所。

   はわけの風よ矢箆切(ヤノキリ)に入(いる)コ斎
『初懐紙評注』には、「矢箆切といふ言葉先新し。前句民家にして武士の若者共、與風珍敷物かげなど見付たる体也。大形は物語などの体をやつしたる句也。或は中将なる人の鷹すへて小野に入、うき舟を見付たるなどのためし成ん。されども其故事をいふにはあらず。其余情のこもり侍るを意味と申べきか。」
無季。
「矢箆切(やのきり)」=矢の棒の部分である矢箆(やの)を切ることをいう。矢箆(やの)は矢柄(やがら)、矢箆竹(やのちく)ともいう。

 かかれとて下手のかけたる狐わな 其角
『初懐紙評注』には、「藪かげの有様ありありと見え侍る。しかも句作風情をぬきて、只ありのままに云捨たる句続き心を付べし。」
無季。

   あられ月夜のくもる傘    文鱗
『初懐紙評注』には、「冬の夜の寒さ深き体云のべ侍る。傘に霰ふる音いと興あり。然も月さへざへと見ゆる尤面白し。狐わなといふに、細に付侍るはわろし。」
季語は「あられ」で冬、降物。「月夜」は夜分、天象。

 石の戸樋(とひ)鞍馬の坊に音すみて 挙白
『初懐紙評注』には、「霰は雪霜といふより、少し寒風冷じく聞ゆる物なるによりて、鞍馬と云所を思ひよせたり。昔は名所の出し様、碪に須磨の浦十市の里吉野の里玉川など付て、證歌に便て付る。霰は那須の篠原、雪に不二、月に更科と付侍るを、当時は句の形容によりて名所を思ひよする。尤心得ある事也。」
無季。「鞍馬」は名所。「坊」は居所。

   われ三代の刀うつ鍛冶    李下
『初懐紙評注』には、「此句詠様奇特也。鞍馬尤人々の云伝て、僧正が谷抔打ものに便る事也。石の戸樋などいふに鍛冶、近頃遠く思ひ寄たる、珍重也。浄き地、清き水をゑらみ、名剣を打べきとおもひしより、一句感情不少。三代といふて猶粉骨鍛冶名人といはん為なり。」
無季。「鍛冶」は人倫。

 永禄は金(こがね)乏しく松の風  仙花
『初懐紙評注』には、「永禄は其時代を云はんため也。鍛冶名人多くは貧なるもの也。仍て金乏しといへる也。前句の噂のやうにて、一句しかも明らかに聞え侍る。是等よく心を付翫味すべし。」
無季。「松」は植物、木類。
永禄=戦国時代のさなかで、川中島の戦い、桶狭間の戦い、永禄の変などが起きている。刀鍛冶から合戦、永禄の頃という連想で展開している。

   近江の田植美濃に耻(はづ)らん 朱絃
『初懐紙評注』には、「只上代の体の句也。金乏しきといふより昔をいふ句也。昔は物毎簡略にて、金も乏しき事人々云伝へ侍る。美濃近江は都近き所にて、田植えなどの風流も、遠き夷とはちがふ成べし。」
季語は「田植」で夏。

 とく起て聞(きき)勝(カチ)にせん時鳥 芳重
『初懐紙評注』には、「時節を云合せたる句也。美濃近江と二所いふにて、郭公をあらそふ心持有て、とく起て聞勝にせんとは申侍る也。」
季語は「時鳥」で夏、鳥類。

   船に茶の湯の浦あはれ也   其角
『初懐紙評注』には、「時鳥、水辺川浦などにいふ事勿論也。船中にて茶の湯などしたる風流奇特也。思ひがけぬ所にて茶の湯出す。茶道の好士也。思ひよらぬ物を前句に思ひ寄たる、又俳諧の逸士也。」
無季。「船」「浦」は水辺。

二裏
 つくしまで人の娘をめしつれて  李下
『初懐紙評注』には、「此句趣向句作付所各具足せり。舟中に風流人の娘など盗て、茶の湯などさせたる作意、恋に新し。感味すべし。松浦が御息女をうばひ、或は飛鳥井の君などを盗取がる心ばへも、おのづからつくし人の粧ひに便りて、余情かぎりなし。」
無季。「人の娘」は人倫。

   弥勒の堂におもひうちふし  枳風
『初懐紙評注』には、「此句、尤やり句にて侍れども、辺土の哀をよく云捨たり。句々段々其理つまりたる時を見て、一句宜しく付捨らる逸句不労。」
無季。恋。釈教。

 待(まつ)かひの鐘は墜(オチ)たる草の上 はせを
『初懐紙評注』には、「弥勒の堂といふ時は、観音堂釈迦堂など云様に、参詣繁昌にも聞えず。物淋しき体を心に懸て、鐘の地に落て葎の中に埋れ、龍頭纔に見えたる体、見る心地せらる。五文字にて一句の味を付たり。注釈に及ばず。よくよく味ひ聞べし。」
無季。釈教。

   友よぶ蟾(ヒキ)の物うきの声    仙花
『初懐紙評注』には、「友呼蟾 ちか頃珍重に侍る。草むらの体、物すごき有様、前句に云残したる所を能請たり。うき声といふにて、待便りなき恋をあひしらひたり。」
季語は「蟾」で夏。

 雨さへぞいやしかりける鄙(ひな)ぐもり コ斎
『初懐紙評注』には、「蟾の声といふより田舎の体を云のべたる也。雨と付る事珍しからずといへども、ひなぐもり珍し。しかも秋に云言葉にあらず。古き歌によみ侍る。惣じて句々、折々古歌古詩等の言葉、所々にありといへども、しゐて名句にすがりたるにもあらず侍れば、さのみことごとしく不記。」
無季。「雨」は降物。

   門は魚ほす磯ぎはの寺    挙白
『初懐紙評注』には、「鄙の体あらは也。濱寺などの門前に、魚干網など打かけたる体多し。曇と云に干スと附たる、都て、作者の器量おもひよるべし。」
無季。釈教。「磯ぎは」は水辺。

 理不尽に物くふ武者等(ら)六七騎  芳重
『初懐紙評注』には、「此句秀逸也。海辺軍乱たる体也。民屋寺中へ押込て狼藉したる有様、乱国のさま誠にかく有べし。世の中おだやかに、安楽の心ばへ、難有思ひ合せて句を見るべし。」
無季。「武者」は人倫。

   あら野の牧の御召(ヲメシ)を撰ミに 其角
『初懐紙評注』には、「前句の勢よく替りたり。野馬とりに出立たる武士の体、尤面白し。三句のはなれ、句の替り様、句の新しき事、よく眼を止むべし。」
無季。

 鵙の一声夕日を月にあらためて  文鱗
『初懐紙評注』には、「段々附やう、文句きびしく続きたる故に、よく云ひなし侍る。かやうの所巧者の心可附義也。夕日さびしき鵙の一声と長嘯のよめるに、西行の柴の戸に入日の影を改めて、とよめる月をとり合せて一句を仕立たる也。長嘯のうたを、本歌に用ゆるにはあらず侍れども、俳諧は童子の語をもよろしきは、借用侍れば、何にても当るを幸に、句の余情に用る事先矩也。」
季語は「月」で秋、夜分、天象。「鵙」は鳥類。「夕日」も天象。

   糺(ただす)の飴屋秋さむきなり 李下
『初懐紙評注』には、「洛外の景気、尤やり句也。月夕日に其地を思ひはかりて見ゆ。」
季語は「秋さむき」で秋。「糺」は名所。

 電(いなづま)の木の間を花のこころせば 挙白
『初懐紙評注』には、「秋といふ字を不捨に付侍る。巧者の(秋以下十五文字一本によりて補ふ)働言語にのべがたし。糺あたりの道すがら森の木の間勿論也。木の間に稲妻尤面白し、真に秋の夜の花ともいふべし。」
季語は「電」で秋。「木の間」は植物、木類。

   つれなきひじり野に笈をとく 枳風
『初懐紙評注』には、「此句の付やう一句又秀逸也。物すごき闇の夜、稲妻ぴかぴかとする時節、聖、野に伏侘る体、ちか頃新し。俳諧の眼是等にとどまり侍らん。」
無季。釈教。旅体。

 人あまた年とる物をかつぎ行(ゆき)   揚水
『初懐紙評注』には、「此句又秀逸也。聖の宿かりかねたる夜を大晦日の夜におもひつけたる也。先珍重。聖は野に侘伏たるに、世にある人は年取物かつぎはこぶ体、近頃骨折也。前句の心を替る所、猶々玩味すべし。」
季語は「年とる物」で冬。「人」は人倫。

   さかもりいさむ金山(かなやま)がはら 朱絃
『初懐紙評注』には、「金山は我朝の大盗也。前句よく請たり。註に不及、附やう明也。」
無季。

三表
 此(この)国の武仙を名ある絵にかかせ  其角
無季。「武仙」は人倫。

   京に汲(くま)する醒井(さめかゐ)の水 コ斎
無季。「醒井」は名所。

 玉川やをのをの六ツの所みて   芭蕉
無季。「玉川」は名所、水辺。

   江湖(かうこ)江湖に年よりにけり   仙花
無季。「江湖」は水辺。

 卯花(うのはな)の皆精(シラゲ)にもよめるかな 芳重
季語は「卯の花」は夏、植物、木類。

   竹うごかせば雀かたよる   揚水
無季。「竹」は植物、木類での草類でもない。「雀」は鳥類。

 南むく葛屋の畑の霜消(きえ)て   不卜
季語は「霜」で冬、降物。

   親と碁をうつ昼のつれづれ  文鱗
無季。「親」は人倫。

 餅作る奈良の広葉を打合セ    枳風
無季。「奈良」は植物、木類。

   贅(ニエ)に買(かは)るる秋の心は はせを
季語は「秋」で秋。

 鹿の音を物いはぬ人も聞つらめ  朱絃
季語は「鹿の音」で秋、獣類。「人」は人倫。

   にくき男の鼾(いびき)すむ月  不卜
季語は「月」で秋、夜分、天象。恋。「にくき男」は人倫。

 苫(とま)の雨袂七里をぬらす覧(らん) 李下
無季。恋。「袂」は衣裳。「苫の雨」は降物。

   生駒河内の冬の川づら    揚水
季語は「冬」で冬。「生駒」は名所。「川づら」は水辺。

三裏
 水(みづ)車米つく音はあらしにて 其角
無季。「水車」は水辺。

   梅はさかりの院(ゐん)々を閉(とづ) 千春
季語は「梅」で春、植物、木類。

 二月(きさらぎ)の蓬莱人もすさめずや  コ斎
季語は「二月」で春。「人」は人倫。
蓬莱山=東の海にある神仙郷で、正月には米を山のように盛り、裏白やユズリハや乾物などを乗せた掛蓬莱を飾った。

   姉待(まつ)牛のおそき日の影    芳重
季語は「おそき日」で春。「姉」は人倫。「牛」は獣類。

 胸あはぬ越の縮(チヂミ)をおりかねて  芭蕉
無季。恋。
「越後縮(えちごちぢみ)」=「現在では新潟県南魚沼市、小千谷市を中心に生産される、平織の麻織物。古くは魚沼から頚城、古志の地域で広く作られていた。縮織のものは小千谷縮、越後縮と言う。」

   おもひあらはに菅(すげ)の刈さし  枳風
季語は「菅の刈」で夏、植物、草類。恋。

 菱のはをしがらみふせてたかべ嶋 文鱗
季語は「菱」で夏、植物、草類。「たかべ」は鳥類。
「たかべ(高部)」=「動物。ガンカモ科の鳥。コガモの別称」

   木魚きこゆる山陰(かげ)にしも   李下
無季。釈教。「山陰」は山類。

 囚(メシウド)をやがて休むる朝月夜   コ斎
季語は「朝月夜」は秋、天象。「囚」は人倫。

   萩さし出す長がつれあひ   不卜
季語は「萩」で秋、植物、草類。「長がつれあひ」は人倫。

 問(とひ)し時露と禿(かむろ)に名を付て 千春
季語は「露」で秋、降物。

   心なからん世は蝉のから   朱絃
季語は「蝉のから」で夏、虫類。

 三度(みたび)ふむよし野の桜芳野山 仙化
季語は「桜」で春、植物、木類。「吉野」は名所、山類。

   あるじは春か草の崩れ屋(や)  李下
季語は「春」で春。「草」は植物、草類。

名表
 傾城を忘れぬきのふけふことし  文鱗
無季。恋。

   経よみ習ふ声のうつくし   芳重
無季。釈教。

 竹深き笋(たかうな)折に駕籠かりて 挙白
季語は「笋」で夏で植物、木類でも草類でもない。

   梅まだ苦キ匂ひなりけり   コ斎
季語は「梅(の実)」で夏で植物、木類。

 村雨に石の灯(ともしび)ふき消ぬ 峡水
無季。「村雨」は降物。「石の灯」は夜分。

   鮑(あはび)とる夜の沖も静に 仙化
無季。「鮑」「沖」は水辺。「夜」は夜分。

 伊勢を乗ル月に朝日の有がたき  不卜
季語は「月」で秋、天象。「朝日」も天象。「伊勢」は名所、水辺。

   欅よりきて橋造る秋     李下
季語は「秋」で秋。「橋」は水辺。

 信長の治(おさま)れる代や聞ゆらん 揚水
無季。

   居士(こじ)とよばるるから国の児(ちご) 文鱗
無季。「児」は人倫。

 紅(くれなゐ)に牡丹十里の香を分(わけて  千春
季語は「牡丹」で夏で植物、草類。

   雲すむ谷に出る湯をきく   峡水
無季。「雲」は聳物。「谷」は山類。

 岩ねふみ重き地蔵を荷ひ捨(すて)  其角
無季。釈教。「岩ね」は山類。

   笑へや三井の若法師ども   コ斎
無季。釈教。「三井」は名所。

名裏
 逢ぬ恋よしなきやつに返歌して  仙化
無季。恋。

   管弦をさます宵は泣(なか)るる   芳重
無季。恋。

 足引の廬山(ろざん)に泊るさびしさよ  揚水
無季。「廬山」は山類、名所。
「廬山」=白楽天が廬山尋陽で作詞した『琵琶行』を本説としている。

   千声(ちごゑ)となふる観音の御名(みな) 其角
無季。釈教。

 舟いくつ涼みながらの川伝い   枳風
季語は「涼み」で夏。「舟」「川伝い」は水辺。

   をなごにまじる松の白鷺   峡水
無季。「をなご」は人倫。「松」は植物、木類。「白鷺」は鳥類。

 寝筵(むしろ)の七府(ななふ)に契る花匂へ  不卜
季語は「花」で春で植物、木類。恋。
「七府」=『夫木抄』の、「みちのくの十符の菅薦七符には/君を寝させて三符に我が寝む/             よみ人知らず」本歌とする。

   連衆くははる春ぞ久しき   挙白
季語は「春」で春。「連衆」は人倫。

参考;『校本芭蕉全集』第三巻(小宮豐隆監修、1963、角川書店)
(この百韻の前半五十句目までは芭蕉自身による『初懐紙評注』という評語が残っている。)
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