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「水鶏啼と(歌仙)」(元禄七年五月二十五日『笈日記(支考撰)』) [江戸の俳諧]

「水鶏啼と(歌仙)」(元禄七年五月二十五日『笈日記(支考撰)』)

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初表
   隠士山田氏の亭にとどめられて
 水鶏啼(なく)と人のいへばや佐屋泊 芭蕉(「水鶏」で夏、鳥類、水辺。「人」は人倫)
   苗の雫を舟になげ込(こむ)      露川(「苗」で夏。「舟」は水辺)
 朝風にむかふ合羽(かつぱ)を吹たてて   素覧(無季。「合羽」は衣裳)
   追手(おふて)のうちへ走る生もの   芭蕉(無季)
 さかやきに暖簾せりあふ月の秋  露川(「月の秋」で秋、夜分、天象)
   崩(くづれ)てわたる椋鳥の声     素覧(「椋鳥」で秋、鳥類)
初裏
 耕作の事をよくしる初あらし   芭蕉(「初あらし」で秋)
   豆腐あぢなき信濃海道    露川(無季。旅体)
 尻敷の縁(ヘリ)とりござも敷やぶり   素覧(無季)
   雨の降(ふる)日をかきつけにけり  芭蕉(無季。「雨」は降物)
 焙烙のもちにくるしむ蠅の足   露川(「蠅」で夏、虫類。)
   藺(ゐ)を刈あげて門にひろぐる  素覧(「藺を刈」で夏)
 切麦であちらこちらへ呼れあふ  芭蕉(「切麦」で夏)
   お旅の宮のあさき宵月    露川(「宵月」で秋、夜分、天象。神祇)
 うそ寒き言葉の釘に待ぼうけ   素覧(「うそ寒」で秋。恋)
   袖にかなぐる前髪の露    芭蕉(「露」で秋、降物。「袖」は衣裳。恋)
 咲花に二腰はさむ無足人     露川(「咲花」で春、植物、木類。「無足人」は人倫)
   打ひらいたるげんげしま畑  素覧(「げんげ」で春、植物、草類)
二表
 山霞鉢の脚場を見おろして    支考(「山霞」で春、聳物、山類)
   船の自由は半日に行(ゆく)     左次(無季。「船」は水辺)
 月夜にて物事しよき盆の際(きは)    巴丈(「月夜」で秋、夜分、天象)
   かりもり時の瓜を漬込(つけこ    露川(「瓜」で秋)
 三鉦(みつがね)の念仏にうつる秋の風  素覧(「秋の風」で秋。釈教)
   使をよせて門にたたずむ   支考(無季。「使」は人倫)
 我恋は逢て笠とる山もなし    左次(無季。恋)
   年越の夜の殊にうたた寐   巴丈(「年越」で冬。恋。「夜」は夜分)
 扨(さて)は下戸いちこのやうに成にけり 露川(無季。「いちこ」は人倫)
   達者自慢の先に立れて    素覧(無季)
 金剛が一世の時の花盛      支考(「花盛」で春、花、植物、木類)
   つつじに木瓜の照わたる影  左次(「つつじに木瓜」で春、植物、木類)
二裏
 春の野のやたらに広き白河原    巴丈(「春の野」で春)
   三俵つけて馬の鈴音      露川(無季。「馬」は獣類)
 それぞれに男女も置そろへ     素覧(無季。恋。「男女」は人倫)
   よめらぬ先に娘参宮      支考(無季。恋。神祇)
 あり明に百度もかはる秋の空    左次(「あり明」で秋、夜分、天象。神祇)
   畳もにほふ棚の松茸      巴丈(「松茸」で秋。「畳」は居所)

『ゆづり物(杜旭自筆・元禄八年成)』の句形(参考)

二表(2)
 一度は暮して見たき山がすみ    支考
   ふねの自由は半日にゆく    左次
 月夜にて物事しよき盆の前     巴丈
   かりもり時の瓜を漬込     露川
 三鉦の念仏にうつる秋の風     素覧
   小者をやりて門にたたずむ   支考
 我恋は逢うて笠取ル山もなし    左次
   貧はつらきよ〇〇假寐     巴丈
 酒塩に酔ふた心も面白や      露川
   一里や二里の路は朝の間    素覧
 伊勢に居て芝居をしらぬ花盛    支考
   つつじの時はなを長閑也    左次
二裏(2)
 春の野のやたらに広キ白河原    巴丈
   から身で馬はしやんしやんと行 露川
 板葺のゆたかに見ゆるお蔵入    素覧
   山ちかふして薪沢山      支考

 参考;『校本芭蕉全集 第五巻』(小宮豐隆監修、中村俊定注、一九六八、角川書店)

(『笈日記(支考撰)・上巻・「伊賀群」』

紀 行
 さや(佐屋)の舟まはりしに、有明の月入はてゝ、みのぢ、あふみ路の山々雪降かゝりていとお(を)かしきに、おそろしく髭生たるものゝふの下部などいふものゝ、やゝもすれば折々舟人をねめいかるぞ、興うしなふ心地せらる。桑名より処々馬に乗て、杖つき坂引のぼすとて、荷鞍うちかへりて、馬より落ぬ。ものゝ便なきひとり旅さへあるを、「まさなの乗てや」と、馬子にはしかられながら、

   かちならば杖つき坂を落馬哉

といひけれども、季の言葉なし。雑の句といはんもあしからじ。
                             ばせを
そのゝちいがの人々に此句の脇してみるべきよし申されしを

(『笈日記(支考撰)・下巻・「雲水追善」』)

https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00032010#?c=0&m=0&s=0&cv=0&r=0&xywh=-2923%2C-260%2C12437%2C5191

雲水追善一.jpg

雲水追善二.jpg

雲水追善
 悼芭蕉翁   尾州熱田 連中
その神な月の二日、しばしとゞめず、今のむかしはかはりぬ。何事もかくとわきまへかぬるなみだ思へばくやし。芭蕉翁、十とせあまりも過ぬらん、いまぞかりし比(ころ)、はじめて此蓬莱宮におはして、「此海に草鞋を捨ん笠時雨」と心をとゞめ、景清が屋しきもちかき桐葉子がもとに、頭陀をおろし給ふより、此道のひじり(聖)とはたのみつれ。木枯の格子あけては、「馬をさへ詠る雪」といひ、やみに舟をうかべて浪の音をなぐさむれば、「海暮て鴨の声ほのかに白し」とのべ、白鳥山に腰をおしてのぼれば、「何やらゆかしすみれ草」となし、松風の里・寝覚の里・かゞ見山・よびつぎ(呼続)の浜・星崎の妙句をかぞへ、終にかたみとなし給ぬと、互に見やり泪の内に、人々一句をのべて、西のそらを拝すのみ。(『日本俳書体系3芭蕉時代三・蕉門俳諧後集』所収「笈日記(上・中・下:支考撰)」)
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