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江戸の狂画・奇想画(その二) [腹筋逢夢石]

その二 山東京伝・歌川豊国らの「豚・奴凧・蝋燭」

蝋燭・奴・豚.jpg

『腹筋逢夢石(山東京伝作・歌川豊国画)・三編』所収「豚・奴凧・蝋燭」

 この左下の挿絵は「家猪(ブタ)」なのである。その「豚」の物真似に、「なんだ、髢(カモジ=女性の髪のための添え髪)を尻に挟むな。いいじゃねえか。一寸のうち貸して下せえ。嬶(カカア)どの、もう俺に口を聞かせて下さんな。口をきくと、面(ツラ)が豚にならねえ」の科白が付いている。
 この豚の物真似は喜劇なのだが、この科白が付いて来ると、大爆笑のうちに、悲劇に似た刻苦の人間の姿が浮かび上がって来る。
 左上の「奴紙鳶(ヤッコダコ)」には、「やり梅の花を散らすな奴紙鳶(ヤッコダコ)柳の糸に風はありとも(京伝)」の狂歌である。「やり梅(槍梅)」は、「槍梅文様」(槍を立てて並べた枝の梅が咲いている文様)の、この奴凧の半纏の梅柄を指しているのであろう。
 京伝は、当時のスーパー・マルチアーティストで、「戯文・戯画・浮世絵師・江戸小紋デザイナー・狂詩・狂歌・狂句・狂画・三味線・唄・踊り・漢詩・古典・和歌・俳諧」等々、それに加えて、当時のそれらのメディア(情報発信地)の、総括マネージャー(経営者・商売人)でもあった。
 この「槍梅文様の奴凧」の姿は、当時の江戸社交界の主軸を成す華やかな花柳界(柳の風)の中で、その「凧」の「糸」が切れるほどの、「江戸粋人・マルチアーティスト」の「風を一身に受けての威風靡堂々とした・山東京伝」の英姿なのかも知れない。
 続く、右側の「蝋燭(ロウソク)の流れ」は、単なる「蝋燭」の物真似ではない。「蝋燭の滴り落ちる」その様の物真似である。「蝋燭の流れ」は、別称「蝋涙」で、「老涙」(年寄りのもろく出やすい涙)に通ずる。
 「槍梅文様の奴凧」は、「江戸粋人のマルチ・スーパースター」京伝の英姿ならば、こちらは、松平定信の「寛政の改革」の取り締まりにより、発禁処分となり、「手鎖(テグサリ・テジョウ)」の刑に処せられ、「恨み目・アカンベーの舌出し・恨めしや―の幽霊の手つき」の京伝の自虐像と相成る。
 これに付する狂歌は、「小夜風に散る灯火は蝋燭の流れも逢へぬ紅葉なりけり(山東京山)」である。この「山東京山」は、京伝の弟で、こちらも、京伝に劣らずの、マルチタレントのスターである。
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