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江戸の狂画・奇想画(その三) [腹筋逢夢石]

その三 山東京伝・歌川豊国らの「蛇・虱・鴛鴦」

蛇・虱・鴛鴦.jpg
『腹筋逢夢石(山東京伝作・歌川豊国画)・二編』所収「蛇・虱・鴛鴦」

 上段の「蛇」の図は、「蛙を呑んだ蛇」の題が付してある。この蛇の背中は「縞柄の帯」なのである。舌は「紙縒り(コヨリ)」で、「舌と見えるか、どうだ、どうだ」と粋ぶっている。狂句は、「ほろほろとおつる涙や蛇の玉」、作者は、尾張蕉門の重鎮にして芭蕉と面識のある越智越人である。
 下段右の「虱」には、「こういう顔をするには、鏡に向かって稽古したこちゃねえ。むず痒い顔と見えるか、見えるか」と啖呵を切っている。狂句は、「おしどりの盃閉じよ薄氷」、作者は、蕉門十哲の第一の門弟にして「江戸座」の開祖・宝井其角である。
 どうやら、この「虱」の眼は、左に居る「おしどり」を狙っている。其角の句は、その「おしどり」に関係する雰囲気であるが、ここは、其角に相応しく、『去来抄』にある、芭蕉と去来との「其角」評を付言して置きたい。

切られたるゆめはまことかのみのあと 其角

 去來曰(イワ)く「其角は誠に作者にて侍(はべ)る。わずかに、のみの喰(クラ)ひつきたる事、たれかかくは謂(イ)ひつくさん」。先師(芭蕉)曰く「しかり。かれは定家(テイカ)の卿(キョウ)也。さしてもなき事を、ことごとしくいひつらね侍る、ときこへし評に似たり」。

 さて、この左の「おしどり」(雄のトサカがある)は、「俺がように口が尖って出額(デビタイ)に生まれつかるば、此の身振りは出来ぬ」と、右の睨んでいる「虱」ではなく、この図にはない、「雌(メス)のおしどり」にウィンクしているのである。
 ここで、其角の「おしどりの盃閉じよ薄氷」の句が活きて来る。



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