SSブログ

北斎の狂句(その五) [北斎の狂句]

その五 灰吹に烟りの残る暮の客

灰吹(ふき)に烟(けむ)りの残る暮(くれ)の客 卍 文政十年(一八二七)

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2022/10/blog-post_29.html


「灰吹から大蛇」(『北斎漫画 十二編』)
http://kawasaki.iri-project.org/content/?doi=0447544/01800000H0

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2022/10/blog-post_29.html

「灰吹から大蛇(部分拡大図)」(『北斎漫画 十二編』) (「川崎市市民ミュージアム図録『日本の漫画300年』」より)

●「灰吹き」=タバコ盆についている、タバコの吸い殻を吹き落とすための竹筒。吐月峰(とげっぽう)。(「デジタル大辞泉」)
※「吐月峰(とげっぽう)」=《静岡市西部の丸子町にある山の名。連歌師宗長が、ここの竹林の竹で灰吹きを作り、吐月峰と名づけたところから》タバコ盆に用いる竹製の灰吹き。
(「デジタル大辞泉」)
※雑俳・しげり柳(1848)「暁にはづむ鞠子の吐月峯」(「精選版 日本国語大辞典」)
※灰吹きから蛇(じゃ)が出る=意外な所から意外なものが出るたとえ。また、ちょっとしたことから途方もないことが生じるたとえ。(「デジタル大辞泉」)
※灰吹きと金持ちは溜まるほど汚い=灰吹きはタバコの吸いがらがたまるほどきたないように、金持ちも財産がふえればふえるほど金にきたなくなる。(「ことわざを知る辞典」)
※煙草盆(たばこぼん)= 喫煙用具を入れる器で、火入れ、刻み煙草入れ、灰吹き(吸殻入れ)が収められ、煙管(きせる)2本を吸口が右になるように置く。寄付(よりつき)や腰掛、薄茶(うすちゃ)席に用意され、客は煙草を吸うほどのくつろいだ気分を味わう(「日本大百科全書(ニッポニカ)『茶道/茶事用語』」)

句意=暮れの大晦日はなんやかんやと人の出入りが多い。煙草盆の吸い殻入れの「灰吹き」(竹筒)も、先客の煙草の吸殻の煙りが未だにくすぶっている。
これに蛇足を付け加えると、つい先だって、北信濃の俳諧寺一茶が亡くなった。中気を患い、無理がたったと、そんな話をして、先ほど川柳会の仲間が、中風気味の吾輩に「この薬を飲んで養生しろ」とのことだ。
 そうそう、この年の翌年のこと、長崎のオランダ商館の「シーボルト」さんらが、吾輩の作品や、国禁である日本地図などを国外に持ち出そうとしたとかの、奇妙奇天烈な「シーボルト」事件やらが勃発して、まさに、「灰吹きから蛇(じゃ)が出た」ような、不気味な年であったわい。

句意周辺=文政十年(一八二七)、画狂老人・卍、狂句人・卍は、四月二十九日、五月二十二日、六月五日開催の川柳の会(催主=風松、判者=柳亭種彦)に出席した。その川柳の会での一句である。この頃、中風を患うが、自家製の薬で回復したという。(『没後150年記念葛飾北斎―東西の架け橋(日本経済新聞社編)』所収「葛飾北斎年譜(未定稿)・菅原真弓編」)
 この年の十一月十九日、松尾芭蕉、与謝蕪村と並ぶ江戸時代を代表する俳諧師の小林一茶が没した(享年六十五)。 北斎は、宝暦十年(一七六〇)の生まれ、一茶は、宝暦十三年(一七六三)の生まれ、北斎が三歳年上であるが、ほぼ同世代の生まれである。
そして、北斎は、自ら、「葛飾の百姓(性)八右衛門」を号するほどに、「武蔵国葛飾(現・東京都墨田区の一角)の百姓出身、そして、一茶は、信州柏原の百姓の出で、後半生は、継母との遺産相続の農地の争いなど、帰郷して、一百姓である共に、俳諧師としての、二股人生を歩んだ。
一茶は、その六十五年の生涯において、「芭蕉の約千句、蕪村の約二千八百句に比して、一茶、約二万句」(『小林一茶―句による評伝(金子兜太 著)』)と、膨大な句を今に遺している。まさに、句狂(巨)人・俳諧寺一茶の名が相応しい。
一方、「北斎は、絵筆一筋の生活を四十歳から半世紀続けた北斎は、生涯でおよそ三万四千点という膨大な作品を残した。単純計算しても、一日約二点を五十年間描き続けたことになる」(『知られざる北斎(神山典士著)』)と、一茶以上の、「葛飾」の「春朗・宗理・北斎・戴斗・為一・卍・画狂老人・北斎辰政(ときまさ)・三浦屋八右衛門・百姓八右衛門」と変幻自在の、大画狂(巨)人なのである。
そして、一茶が亡くなった翌年の、「シーボルド事件」が勃発した、文政十一年(一八二八)に、画・俳二道を究めた、江戸琳派の創始者の「酒井抱一(姫路藩主・忠以の弟・忠因)」(屠牛・狗禅・鶯村・雨華庵・軽挙道人・庭柏子・溟々居・楓窓・白鳧・濤花、杜陵(綾)・尻焼猿人・屠龍)が没している(享年六十八)。
 まさに、この「北斎(宝暦十年生まれ)・抱一(宝暦十一年生まれ)・一茶(宝暦十三年生まれ)」(年齢順)は、江戸後期の最後を飾る、その大道芸を見せてくれる。

(画像)→ https://yahantei.blogspot.com/2022/10/blog-post_29.html

葛飾北斎「北斎漫画」十編 香具師  すみだ北斎美術館蔵
https://intojapanwaraku.com/art/4057/

(煙草曲芸)=一茶「煙草・二十句」

http://ohh.sisos.co.jp/cgi-bin/openhh/jsearch.cgi?group=hirarajp&dbi=20140103235455_20140104000746&s_entry=17340&se0=0&sf0=0&sk0=

今春が来たよふす也たばこ盆   新年 八番日記
かすむ程たばこ吹つゝ若菜つみ  新年  書簡
一引はたばこかすみやわかなつみ 新年  八番日記
二葉三葉たばこの上に若な哉 新年   文政句帖
二葉三葉たば粉の上の若な哉 新年   文政句帖
永き日やたばこ法度の小金原   春    文政句帖
酒法度たばこ法度や春の雨    春 七番日記
大寺のたばこ法度や春の雨 春 文政句帖
てうちんでたばこ吹也春の風 春 七番日記
春風に二番たばこのけぶり哉 春 七番日記
菜畠やたばこ吹く間の雪げ川 春 文政句帖
雛棚やたばこけぶりも一気色 春 七番日記
参詣のたばこにむせな雀の子 春 七番日記
鶯よたばこにむせな江戸の山 春 七番日記
鶯やたばこけぶりもかまはずに  春 七番日記
蝶(々)立とは吹かざりしたばこ 哉 春 文政句帖
さく花にけぶりの嗅いたばこ哉  春 七番日記
青くさきたばこ吹かける桜哉 春 花見の記
涼しさや土橋の上のたばこ盆 夏 八番日記
二番のむつくり見ゆるたばこ哉  秋   享和句帖
老らくもことしたばこのけぶり哉 秋   八番日記
赤くてもことしたばこのけぶり哉 秋   梅塵八番
けぶりともならでことしのたばこ哉 秋  八番日記
けぶりともならでことしのたばこ吹 秋  文政句帖

(鉤柿)=一茶「柿・二十句」

http://ohh.sisos.co.jp/cgi-bin/openhh/jsearch.cgi?group=hirarajp&dbi=20140103235455_20140104000746&s_entry=17340&se0=0&sf0=0&sk0=

柿を見て柿を蒔けり人の親    秋 七番日記
胡麻柿や丸でかぢりし時も有   秋 七番日記
渋い柿灸をすへて流しけり    秋 七番日記
浅ましや熟柿をしやぶる体たらく 秋 七番日記
くやしくも熟柿仲間の坐につきぬ 秋 七番日記
御所柿の渋い顔せぬ罪深 秋 七番日記
渋柿をはむは鳥のまゝ子哉    秋 七番日記
高枝や渋柿一つなつかしき    秋 七番日記
生たりな柿のほぞ落する迄に   秋 七番日記
庵の柿なり年もつもおかしさよ  秋 七番日記
頬べたにあてなどするや赤い柿 秋 八番日記
頬べたにあてなどしたり赤い柿 秋 梅塵八番
甘いぞよ豆粒程も柿の役     秋 八番日記
甘いぞよ豆粒程でも柿の役 秋 梅塵八番
柿の木であえ(と)こたいる小僧哉 秋 八番日記
狙(さる)丸が薬礼ならん柿ふたつ 秋 八番日記
師の坊は山へ童子は柿の木へ    秋 八番日記
渋柿をこらへてくうや京の児    秋 八番日記
渋い柿こらへてくうや京の児    秋 梅塵八番
渋い所母が喰いけり山の柿     秋 八番日記

(無芸大食)=一茶「蕎麦・十句」

http://ohh.sisos.co.jp/cgi-bin/openhh/jsearch.cgi

藪蕎麦のとくとく匂へかへる雁  春 文化句帖
蕎麦国のたんを切りつゝ月見哉  秋 おらが春
蕎麦の花たんを切つゝ月見哉    秋 発句鈔追加
更しなの蕎麦の主や小夜砧  秋 享和句帖
徳本の腹をこやせよ蕎麦(の)花  秋 七番日記
日の入のはやき辺りを蕎麦の花  秋 発句鈔追加
雪ちるや御駕へはこぶ二八蕎麦  冬 だん袋
初霜や蕎麦悔る人めづる人   冬 寛政句帖
芭蕉忌の客が振舞ふ夜蕎麦切  冬 発句鈔追加
草のとや先蕎麦切をねだる客   冬 梅塵八番

(曲喰)=一茶「団子・十五句」

http://ohh.sisos.co.jp/cgi-bin/openhh/jsearch.cgi

春雨やあさぢが原の団子客   春 希杖本
草の葉や彼岸団子にむしらるゝ  春 文化句帖
草の家や丁どひがんの団子哉   春 文政句帖
寺町は犬も団子のひがん哉   春 文政句帖
胡左を吹口へ投込め土団子   春 浅黄空
黒土も団子になるぞ梅の花   春 七番日記
有様は我も花より団子哉   春 七番日記
正直はおれも花より団子哉   春 浅黄空
団子など商ひながら花見哉   春 八番日記
としまかりよれば花より団子哉 春 文政句帖
としよりの身には花より団子哉 春 書簡
看板の団子淋しき柳哉     春 享和句帖
十団子玉だれ近く見れけり    夏 いろは別雑録
土団子けふも木がらしこがらしぞ 冬 七番日記
霜がれ(や)胡粉の剥し土団子 冬 八番日記

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:アート

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。