SSブログ

狂画の鬼才「河鍋暁斎」(その五) [河鍋暁斎]

(その五)「蛙の蛇退治」他

蛙の蛇退治.jpg

「蛙の蛇退治」(部分図)一面 紙本着色 大英博物館蔵 明治十ニ年(一八七九)頃  
三七・二×五ニ・〇cm

弱者と強者を逆転させることで哄笑を誘う構図は「鳥獣戯画」以来の伝統といえる。本図では、弱者である蛙が強者である蛇の自由を奪うことに成功して大喜び。自由の効かないのをいいことに、蛇の胴で曲芸やぶらんこをしたり、銀杏の葉の扇をかざして見えを切る者もいる。日頃の恨みの返報とばかり、やりたい放題だ。しかし、まだしっかりと縛りつけられていない尻尾に振り回されている者もいて、いつ形勢逆転するか油断はならないようだ。
『別冊 太陽 河鍋暁斎 奇想の天才絵師 (監修=安村敏信)』所収「作品解説(佐々木英理子稿)」

蛙の人力車.jpg

蛙の人力車と郵便夫

https://www.city.warabi.saitama.jp/hp/menu000010200/hpg000010162.htm

蛙の放下師.jpg

「蛙の放下師」 一幅 紙本墨画淡彩 ゴールドマン・コレクション 明治四年(一八七一)以降 一三二・六×四五・六cm

様々な曲芸を演じる蛙たちを暁斎はよく描いている。本図は蓮の果実を太鼓にした軽やかなリズムに乗って登場した殿様蛙が、扇子片手に蓮の果実付きの茎を口の上乗せて、片足をあげる。太鼓打ちは気合が入ってきて、怪気炎を吐き出す。茎の上ではもう一匹の蛙が三味線を弾き鳴らす。彼に向って茎を登ってゆく蛙は一体何をするのやら。淡墨の速筆で瞬く間に仕上げられた思しき、軽妙洒脱な作品である・
『別冊 太陽 河鍋暁斎 奇想の天才絵師 (監修=安村敏信)』所収「作品解説(安村敏信稿)」

狂画の鬼才「河鍋暁斎」(その四) [河鍋暁斎]

(その四)「巨大化猫」

巨大化猫.jpg

「巨大化猫」(「芝居説話画帖・全八図」の内の一帖)絹本着色 個人蔵
一九・二×二八・七cm 明治三年(一八七〇)以前 

「月之輪主人」(大伝馬町・小間物問屋・勝田伍兵衛)の注文で制作したもの。これは、「芝居説話画帖・全八図」の内の一つであるが、この他に、「江戸名所伝奇画帖一(全二十六図)」・
「同二(全二十二図)」がある。とにもかくにも、この「巨大化猫」は圧巻である。


共通テーマ:アート

狂画の鬼才「河鍋暁斎」(その三) [河鍋暁斎]

(その三)「髑髏(しゃれこうべ)と蜥蜴(とかげ)」

髑髏と蜥蜴.jpg

「髑髏(しゃれこうべ)と蜥蜴(とかげ)」(全十四図中の一帖)
絹本着色 個人蔵 一九・一×一四・六cm
明治二・三年(一八六、七〇)

「風俗鳥獣画譜」(全十四図)中の一帖。「髑髏と蜥蜴」は、「髑髏」の目から這い出す「蜥蜴」が難とも不気味だ。次の、北斎の「百物語(しうねん)」が念頭にあるか? 背景は広重調の風景画の雰囲気である。

北斎・百物語.jpg

葛飾北斎「百物語」(しうねん) 中判錦絵 葛飾北斎美術館蔵 天保元年(一八三〇)
「このシリーズものは、五作が確認されている。位牌に骨壺から出てくる蛇が絡むという不気味な図。」

髑髏.jpg

伊藤若冲「髑髏図」絹本着色 一〇二・五×五ニ・六cm 台東区有形文化財 臨江寺蔵
宝暦十年(一七六〇)

近年、東京で発見された若冲四十五歳頃の作。若冲は髑髏を「人間は無から生じ、無に帰す」という禅的精神の象徴として描いたと思われる。
『反骨の画家 河鍋暁斎(狩野博幸・河鍋楠美著)』

暁斎は、これらの、若冲の「髑髏」ものも承知していたように思われる。

狂画の鬼才「河鍋暁斎」(その二) [河鍋暁斎]

(その二)「鳥獣戯画 画稿」

猫又と狸.jpg

「鳥獣戯画 画稿 猫又と狸」一面 紙本淡彩 河鍋暁斎記念美術館 制作年不明
五三・二×六〇・六cm

梟と狸の行列.jpg

「鳥獣戯画 画稿 梟と狸の行列」一面 紙本淡彩 河鍋暁斎記念美術館 制作年不明
五七・五×六〇・八cm

「鳥獣戯画」は、伝鳥羽僧正覚猷(1053~1140)の「鳥獣人物戯画」に遡る古い画題だ。しかし暁斎の鳥獣戯画は、妖しき世界を醸し出している。実際、赤いチャンチャンコを着た猫は、尻尾が二つに分かれた妖怪「猫又」であり、狸も頭に木の葉を載せ、今まさに変化(へんげ)するところ。一方、行列をなす動物たちも曲者(くせもの)で、狐は頭に髑髏を載せた化け狐。烏帽子をつけた梟が先導し、狸が木葉を着て化け狐に乗り、蛙はその狸に大笠を差しかけている。この怪しい行列は一体何に化けるのか……。こうして動物たちさえ擬人化し、表情豊かに描く暁斎の筆力は、どこから生み出されたのだろう。暁斎にとって「写生」とは、あらゆる動物の骨格、構造や瞬間の動きを記憶してしまうことだった(モーテイマー・メンピス談)。日々写生に勤(いそ)しんだという暁斎の驚くべき記憶力と再現力があって生み出された、魅力溢れる鳥獣戯画だ。
『別冊 太陽 河鍋暁斎 奇想の天才絵師 (監修=安村敏信)』所収「作品解説(加美山史子稿)」


共通テーマ:アート

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。